地域に必要とされるクラブへ。岡山湯郷Belleが高齢者サロンから描く「街のシンボル」
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【「Belleの選手が来るなら」数年ぶりにサロンへ】
「Belleの選手が来るなら」――。
普段は地域のサロンに足を運ばない高齢者が、岡山湯郷Belleの選手が参加すると聞き、数年ぶりに姿を見せた。
岡山県北東部の美作市では高齢化が進んでいる。そこでBelleが美作市社会福祉協議会とともに取り組んでいるのが、「高齢者いきいき・ふれあいサロン」だ。選手たちは介護予防サポーター養成講座を受講し、さまざまな活動を通して高齢者との交流を続けている。女子サッカークラブが地域の高齢者と向き合う背景には、岡山湯郷Belleが目指す「街のシンボル」への思いがある。
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【介護が必要になる前に、クラブにできること】
美作市の高齢化率は43.7%(2025年10月時点)。市では高齢者の孤立防止やフレイル予防に向けた事業を展開しているが、それを支える介護予防サポーターの担い手不足や高齢化も課題となっている。高齢者が若い世代と接する機会も多くない。
同じ地域で活動する岡山湯郷Belleも、こうした状況に目を向けていた。介護を必要とする人が増える一方、介護現場の人材確保も難しくなる中、高橋寿輝ゼネラルマネージャー(GM)が考えたのは、スポーツクラブだからこそ担える役割だった。
「介護が必要になってからではなく、その前の段階でクラブにできることはないか、と考えるようになりました」
具体的なきっかけとなったのが、岡山、兵庫、鳥取の自治体による三県境地域創生会議だ。各自治体からフレイル予防についての報告を聞いた高橋GMは、クラブにも力になれることがあるのではないかと考え、美作市に相談し、地域と連携した取り組みの可能性を探り始めた。
その頃、美作市社会福祉協議会も「高齢者いきいき・ふれあいサロン」の今後を模索していた。高齢者が身近な地域で集まり、交流や介護予防を通じて健康づくり、生きがいづくり、仲間づくりにつなげる場として普及を進めてきた。一方、活動を続ける中で悩みも生まれていた。
「サロンでは担い手不足や活動内容のマンネリ化、参加者のさらなる高齢化などの課題が生じていました」
美作市社会福祉協議会・福祉のまちづくり推進課の松本陽課長はそう振り返る。若い世代との接点が限られる中、Belleの選手がサロンを訪れると、参加者に自然と笑顔が生まれ、場全体が明るく活気づくという。

2024年度にBelleの選手たちが美作市の介護予防サポーター養成講座を受講し、翌2025年度には同協議会とクラブが委託契約を締結。選手が市内のサロンを訪ね、高齢者と交流する取り組みが動き始めた。
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【介護予防サポーターとして学んだこと】
高齢者の輪に入る前に、選手たちは「知ること」から始めた。
介護予防サポーター養成講座では、高齢者と接する上で必要な知識を身につけ、身体状況に配慮しながら活動するための準備を重ねた。高齢者と接する上で必要な知識を身につけ、身体状況に配慮しながら活動するためだ。高橋GMは、その準備を欠かせないものと考えていた。
「高齢者の皆さんと活動する以上、『元気なサッカー選手が行けば喜んでもらえる』というだけではダメだと思っています。年齢や身体状況によって、私たちには想像できないことが起こる可能性もあります。まず正しい知識を身につけた上で活動することが大切だと考えました」

走る、跳ぶ、素早く動くことを日常とする選手たちも、高齢者に合わせて動く範囲やスピードを変え、ゆっくりと分かりやすく伝えることを学んだ。講座を受講したDF村上夏奈瀬も、多くを学んだ一人だ。
「高齢者の方がいつまでも元気に生活するためには、身体を動かすことだけでなく、人との交流や外に出て誰かと関わることも大切だということを学びました。私たちが頑張ることで、元気や楽しみを与えられるような活動にしたいと思いました」
受講後には「自分のおばあちゃんにもやってあげられる」「サッカー以外でも自分にできることが増えた」という声も上がった。実際の交流を前に、村上はどう話しかければいいのか、うまくコミュニケーションを取れるのかと不安も感じていたという。サロンへ足を運ぶと、その緊張はほどけていった。
「皆さんがとても明るく話しかけてくださって、Belleのことを昔から知っている方もたくさんいました。すぐに打ち解けることができました」
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【地域が決める、選手との時間】
体操、柏餅作り、抹茶点て体験、いちご狩り。サロンで選手たちが参加する活動はさまざまだ。
「岡山湯郷Belleは女子サッカークラブです。でも、地域の中での役割まで『サッカーだけ』に限定する必要はないと思っています」
選手は毎回2~3人ずつサロンへ出向き、その日の活動を高齢者とともに楽しみながら自然に言葉を交わす。そうした関わり方には、クラブが大切にしている地域との距離感が表れている。

「こちらから『サッカーをやりましょう』と決めるのではなく、『皆さんはBelleの選手と何をしたいですか?』という考え方を大切にしました。体操でもいい、物を作ってもいい、一緒に話すだけでもいい。地域が何を求めているのかを知り、私たちの使い方を地域の皆さんに考えてもらう。それこそが本当の意味での地域密着だと思っています」
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【「孫ができたみたい」顔を合わせて縮まった距離】
活動が始まると、選手を迎える側にも変化が表れた。サロンの参加者は選手紹介のボードを手作りし、お饅頭を用意するなど、自分たちで準備をするようになった。
松本陽課長が感じたのは、誰かを迎え、喜ばせようとすること自体が持つ力だった。
「普段は支えられる立場になることが多い高齢者ですが、『誰かのために何かをすること』『誰かに喜んでもらうこと』は、年齢を重ねても変わらない大きな喜びなのだと改めて感じました。選手をもてなし、喜んでもらうこと自体が、生きがいやサロンへ参加する楽しみにもつながっています」
選手と顔を合わせることは、サロンへ出かける新たなきっかけにもなっている。数年ぶりに参加した高齢者の家族から、後日クラブへ感謝の言葉が寄せられたケースもあった。高橋GMの印象に残っているのは、ある参加者から聞いたこんな言葉だ。
「『Belleが頑張っているのは知っていたけど、一緒に活動すると孫ができたみたいで、もっと応援したくなる』という言葉です。試合を観てもらうだけでは生まれない関係が、実際に顔を合わせ、話して、一緒に笑うことで生まれていると感じています」
交流の中で、村上はBelleを昔から知る高齢者が想像以上に多いことにも驚いた。「昔はよく観に行っていた」と声を掛けられ、クラブの昔のグッズを今も大切に持っている人にも出会った。
「皆さんが笑顔で楽しそうに活動されている姿を見ると、私たち選手の方が元気をもらうことも多いです。これまで経験してきたことや人生についてのお話を聞く中で、自分自身もたくさんのことを学べる活動だと感じています」

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【「このクラブがなくなったら、この街が困る」】
サロンで生まれた「もっと応援したい」という思い。その先に、美作市社会福祉協議会は大きな可能性を見ている。
美作市では都市部と比べてエンターテインメントに触れる機会が少なく、移動手段が限られる高齢者にとっては新たな刺激も限られている。地域に女子サッカークラブがあり、選手と直接交流しながら応援できる環境を、松本課長は「地域ならではの貴重な社会資源」と捉えている。
「サロンで交流したことをきっかけに、高齢者がサポーターとなって地域の仲間と一緒にホームゲームを観戦したり、サポーター同士の新たなつながりが生まれたりすれば、『次の試合を楽しみに毎日を過ごす』という生活の張り合いが生まれると思います」
こうした動きは、孤立防止や介護予防、生活の質(QOL)の向上にもつながる可能性がある。
一方、村上は高齢者と話す中で、身体の不自由さや「スタジアムへ行く足がない」といった声にも触れた。応援したくても、会場まで足を運ぶことが難しい人がいる。活動は、地域が抱える課題を知る機会にもなっている。
交流は、すでに日常の中で応援へとつながり始めている。村上も、街中や試合会場で顔を覚えてもらい、「頑張ってね」と声を掛けられる機会が増えたという。
「プレーで結果を出すことはもちろんですが、地域の方に『Belleがあってよかった』『Belleの選手を応援したい』と思っていただける存在になることも、私たち選手の大切な役割だと思っています。地域の方からいただく応援や温かい言葉は、大きな力になります」
高橋GMが考える地域密着とは、「子どもから高齢者まで、人生のさまざまな場面に岡山湯郷Belleが存在すること」。サッカーに興味がない人にも「Belleがあって良かった」と思ってもらえるクラブを目指している。
「スポーツクラブの価値は勝敗だけでは決まらないと思っています。『このクラブがなくなったらこの街が困る』。地域の皆さんからそう思っていただける存在になること。それが岡山湯郷Belleの目指す『街のシンボル』であり、この活動もそのための大切な一歩だと考えています」
文=松原渓(スポーツライター)
一般社団法人日本女子サッカーリーグ 


