連載コラム

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る

2026年01月27日

なでしこリーグがつなぐ地域の絆~愛されるシンボルを目指して~ヴィアマテラス宮崎

暮らしの困りごとに寄り添うクラブへ。ヴィアマテラス宮崎「ごみ出し支援」と見守りの現場

【ごみ袋の受け渡しが、会話の入口に】

玄関先で「おはようございます」と声をかけると、家の奥からゆっくりと足音が近づいてくる。ヴィアマテラス宮崎の選手とスタッフが新富町内の住宅を訪れ、ごみ袋を受け取りながら交わすのは、分別の確認だけではない。「体調はどうですか」「最近は寒いですね」。その短いやり取りの中で、表情や声の調子にさりげなく目を配る。回収のルールは決まっているが、玄関先で生まれる会話の内容は一軒ごとに違う。ときに袋がまとまり切っていないこともある。そんな時も慌てず、相手のペースに合わせて手を貸すのが基本だ。

「実際の訪問ではまず、ごみを回収します。その中で分別できていなかったり、まだまとめられていなかった時は一緒に手伝います。その後、私たちのサッカーの話をしたり、相手方の最近の様子を伺います。特に一人暮らしの方はより深く話を聞くようにしています。一人だと体調が悪かった時や何かあった時、助けを求める人が少ないと思います」

活動に参加する村上は、回収作業の先にある「見守り」をそう捉える。重い袋を運ぶ場面でも「少しは力持ちなので役に立てている」と笑うが、その価値は体力だけでは測れない。

馬場ひなのも「訪問は、まず挨拶からスタートします。この最初の交わし合いで、体調や様子が見れます」と言う。回収をしながら季節の話やサッカーの話を交わすことで、試合会場に足を運べない人にもクラブの存在が届いていく。その積み重ねが、孤立をほどく入口になっていく。

260127_ヴィアマ_1.png

【町の課題から始まったモデル事業】

新富町高齢者ごみ出し支援モデル事業は、町が把握した「暮らしの困りごと」から始まった。背景にあるのが、令和4年度の『新富町介護予防・日常生活圏域ニーズ調査』である。

「ごみ出し支援を希望する声が寄せられました。高齢化の進行により高齢者のみの世帯が増加している現状を踏まえ、令和6年度からモデル事業として見守りも兼ねたごみ出し支援を開始しました」

ごみ出しは生活の一部であり、滞れば暮らしの乱れや不安が表に出やすい。だからこそ、負担を軽くするだけでなく、顔を合わせて声をかける「見守り」の視点を組み込んだ。
ヴィアマテラス宮崎の内間安路氏は、地域での認知度の高さを生かし、選手やスタッフが直接訪ねる形にすれば、地域密着を掲げるクラブの強みを生かせると、本事業に名乗りを上げた。

「地域住民のほとんどが名前を知っているヴィアマの選手やスタッフがごみを回収することで、高齢者のお困り事を解決することはもちろん、実際に顔を合わせてお話しをすることで高齢者の心にも寄り添えるのではないかと」

支援の対象となる高齢者世帯の増加という構造課題に対し、行政とクラブが役割を分担しながら踏み込んだのが、このごみ出し支援事業である。

________________________________________

【行政との連携が支える、回収と見守り】

町とクラブの連携を機能させているのは、役割分担の明確さだ。新富町内で初めての試みとなったごみ出し支援は、利用者がどの程度いるのかも含め「0からのスタート」(内間)だったという。行政と連携し、地域の実情をよく知る自治会長や民生委員、地域包括支援センター等からごみ出しに困っている高齢者の情報収集を行い申請に繋げるなど、地道に事業の浸透を図った。

回収は火曜から金曜までの午前9時〜12時。町内の利用世帯を訪ねてごみを回収し、クリーンセンターへ運搬した後、事務所で振り返りを行う。車両の清掃や、会話・要望の記録まで含めて、日々の流れをルーティン化している。

260127_ヴィアマ_2.png

見守りは、特別なチェックではなく、自然な声掛けの中で行う。「体調の変化を尋ねたり、直近のニュースや季節の話題に触れる」(内間氏)といった会話のなかで、表情や声の調子も手がかりにする。
異常がある場合や面談ができなかった場合は、クラブを経由して役場へ連絡が入る。役場は地域包括支援センターなどの関係機関と情報を共有し、必要に応じて再訪問や、家族等への連絡につなげるという。役場担当者は、連携の利点を次のように語る。

「行政だけでは出せないスピード感や柔軟性を持って対応できるところは利点だと思います。さらに、高齢者にとっては孫世代になる選手と交流することが喜びや楽しみにつながっており、孤立防止にも効果があります」

________________________________________

【増えた世帯数、深まった関係】

開始当初は4世帯だった利用者は、令和8年1月末時点で28世帯(31名)まで増え、継続率もほぼ100%。回収実績は、令和6年が訪問383回・1277袋、令和7年は訪問714回・2091袋(いずれも12月末時点)と、大きく伸びている。

利用者が増えても回らなくなるのではなく、運用が安定していった背景には改善の積み重ねがある。回収ルートをGoogleマップで共有し、役場とのやりとりも2年目に入ってスムーズになった。

ただし、この取り組みの価値は"袋の数"だけでは測れない。役場には、利用者から「ごみ出しの負担が減り生活が楽になった」「分別がしやすくなり、ごみを出しやすくなった」という声が寄せられている。さらに「地震が起きた後すぐに駆けつけて声をかけてもらえて良かった」という声もあり、非常時の安心にもつながっている。遠方に住む家族が数か月に一度しか帰省できないケースでは、「ごみがたまっているのではないかという不安から解消され、同時に安否確認もしてもらえるので満足している」と評価されたという。支援を受ける本人だけでなく、離れて暮らす家族の不安も軽くしている。

260127_ヴィアマ_3.png

クラブ側が実感しているのも、生活支援の枠を超えた変化だ。内間氏はこの2年間で、ごみ出し以外の困りごとを手伝う場面も増えたと明かす。会話を重ねる中で感謝の言葉や差し入れを受け取ることも多く、「ただのごみ回収ではなく、ごみを回収した先で生まれる交流こそがこの事業の本来の目的だと改めて感じています」と語る。

利用者からの手紙、利用当初より元気になった姿、クラブを応援しサッカーの話題が増えていくこと----そうした小さな出来事が積み重なり、関係が育っていく。

現場に立つ選手も、その空気を肌で受け止めている。村上和愛は「いつもテレビ見てるよ!とかサッカー頑張ってね!と声をかけていただく時には、このチームは地域から愛されているんだなと感じます」と実感を込める。数字の裏側で起きている関係の変化に、活動の成果が裏付けられている。

________________________________________

【必要な人に届けるために。広がる支援】

ごみ出し支援を続けるほど、選手たちは見守りの責任を実感するようになる。村上は「見守ることは簡単なことではないと思います」と強調し、こう続けた。

「よく喋ってくれる方なら少しの異変でも把握することができますが、寡黙な方や、回数が少ない方は異変に気づけない場合があります」

限られた接点の中で、体調や気持ちの変化を感じ取ることには限界もある。だからこそ村上は、言葉選びと距離感の取り方に気を配り、一人ひとりのペースに合わせて声をかけていく。

「できるだけ相手の方が無理なく、ストレスなく会話できるように心がけています。何かが起きた時に、もし気づいていれば防げていたことであれば、強く責任を感じます。この取り組みは、ただごみを回収するだけではないと思っています」

一方、馬場は、活動が生む交流の力に目を向ける。

「ごみ出し支援に参加することで、世代を超えた住民同士のコミュニケーションが生まれ、地域の絆が深まると思います。棚を動かす、家具を運ぶといったお困り事に寄り添うこともあり、利用者の皆さまの活力になっていると感じることもあります」

260127_ヴィアマ_4.png

一方で、必要な人に情報が届き切っていない課題も残る。役場担当者は「広報紙やホームページで周知を行っているものの、認知度は限定的」と話し、一人暮らしや高齢者のみの世帯には情報が届きにくい可能性を指摘する。民生委員や地域包括支援センター、社会福祉協議会など、地域ネットワークを生かした周知の強化が必要と考えている。
現場には草刈りや電球交換など、ごみ出し以外の要望も寄せられている。クラブは「生活全般のささいな困りごと」にも対応できる形を模索していきたいと見据える。

有事への備えもテーマだ。内間氏は大規模災害時の人員不足を課題に挙げる。その際に鍵となり得るのが、選手の多くが新富町の自治体制度を活用し「地域おこし協力隊」として、サッカーと並行して地域活動に携わっている点だ。平時から地域に入り、顔の見える関係を作っているからこそ、「より多くの人を地域で見守れる存在になりたい」と語り、馬場も「困っていることに寄り添った活動を増やして、地域の皆様の笑顔が広がっていく形が理想」と展望を示す。

地域の暮らしに根を張るこの活動は、なでしこリーグが掲げる地域密着の価値を、具体的な形で示すモデルになっている。

文=松原渓(スポーツライター)

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る