連載コラム

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る

2026年03月24日

なでしこリーグがつなぐ地域の絆~愛されるシンボルを目指して~南葛SC WINGS

南葛SC WINGSが学校へ届ける"夢の入口"。「翼DREAM」が育む地域とのつながり

________________________________________

【子どもたちの「楽しい」が動き出す瞬間】

現役選手と一緒にボールを追い、声をかけ合い、笑顔をこぼす。そのひとときが、子どもたちにとって特別な記憶になる。南葛SC WINGSが取り組む学校訪問型プログラム「翼DREAM」は、サッカーの楽しさや仲間と協力することの大切さ、夢や挑戦を思い描くきっかけを、子どもたちに届ける活動だ。

舞台は葛飾区・江戸川区など東東京エリアの小学校。選手たちは子どもたちと同じ目線で体を動かしながら、スポーツの面白さを伝える。その時間の中で、子どもたちは少しずつ表情を緩ませ、ボールを追う楽しさを知っていく。

260324_南葛SC_1.png

活動に参加した南葛SC WINGSのMF菅野永遠は、子どもたちからかけられた言葉が強く印象に残っているという。

「『サッカーしたことなかったけど、こんなに楽しいんだね!』とか、『もっとやりたい、教えて!』と言ってくれる子もいて、とてもうれしかったです」

そこには、「地域貢献」という言葉では収まりきらない価値がある。選手が学校へ出向き、子どもたちと一緒にボールを蹴る。その体験を通じて、子どもたちの中にサッカーへの興味や挑戦の心が芽生えていく。

________________________________________

【"行く"ことで生まれる地域との接点】

「翼DREAM」は、南葛SCが2015年頃から続けてきた学校訪問型プログラムだ。2024年からは公益財団法人キャプテン翼財団が主催し、南葛SCが事業運営を受託している。

この活動の出発点について、南葛SC WINGS広報の如月拓未氏はこう語る。

「クラブが地域に根差した存在として活動していくうえで、子どもたちと直接触れ合う機会をつくりたいという思いから始めた取り組みです。サッカーを通じて夢や挑戦する気持ちを伝えるとともに、クラブを身近に感じてもらい、地域とのつながりを深めていくことを目的として継続しています」

特徴的なのは、一般的なサッカー教室のように子どもたちを集めるのではなく、クラブ側が学校へ足を運んでいる点だ。そこに、「翼DREAM」の核がある。

クラブが学校へ出向くことで子どもたちや教員との交流が自然に生まれ、地域の人々にとっても南葛SC WINGSを身近に感じる機会が増える。ホームタウンの空気感をクラブ文化として大切にする南葛SCにとって、こうした地域活動はその空気を伝える機会にもなっている。

260324_南葛SC_2.png

如月氏は「WINGSが葛飾の中に存在しているという実感を、双方が持てることが学校訪問型の大きな価値だと考えています」と話す。

日々の暮らしの延長線上に足を運び、子どもたちや学校と顔の見える関係を築いていく。その積み重ねが、活動を支えている。

________________________________________

【サッカー未経験の子にも届く工夫】

「翼DREAM」には、すでにサッカーに親しんでいる子どももいれば、ほとんど経験のない子どもも参加する。だからこそ、子どもたちが気後れせずに入っていける雰囲気づくりが欠かせない。菅野は、子どもたちと接する際に意識していることをこう語る。

「まずはとにかく楽しんでもらうことを一番大切にしています。ボールを蹴ることってこんなに楽しいんだ!と思ってもらえるように、できたことをたくさん褒めることを意識しています」

260324_南葛SC_3.png

初めてボールに触れる子どもは、思い通りに蹴れなかったり、どう動けばいいか迷ったりする。そんなときに必要なのは、「できたこと」に目を向ける声かけだ。少しでも前に蹴れた、思い切って走れた、仲間にパスを出せた――。何かひとつを認めてあげることで、子どもたちの中に「もっとやってみたい」という気持ちが育っていく。1コマ45分の中で、挨拶と準備運動、おにごっこ、ドリブル練習、シュート練習、ミニゲームへと進むのが基本の流れだが、低学年ではドリブルのメニューを減らし、ボールを使った「だるまさんがころんだ」を取り入れるなど、学年に応じた工夫もしている。

みんなで一緒に体を動かすからこそ、菅野は「声を掛け合い、助け合うこと」の大切さも子どもたちに伝えているという。

「自分自身のサッカーの経験も話しながら、夢に向かって努力することの大切さについても子どもたちに伝えるようにしています」

一つのボールを追いながら、経験の差や性別の違いを越えて子どもたちが関わり合う。そうした空気感が、サッカーへの入り口を広げていく。

菅野自身も、学校訪問を通して「一番大切なことは『サッカーを楽しむ』ことだと改めて感じました」と振り返る。結果が求められる場に身を置く選手にとっても、子どもたちの素直な反応や笑顔は、ボールを蹴る喜びの原点を思い出させてくれる。

________________________________________

【学校での出会いが生む価値】

「翼DREAM」は、クラブの地域貢献活動という枠にとどまらず、学校にとっても意義のある取り組みになっている。葛飾区立柴原小学校の新井先生は、その価値をどこに感じているのか。

「現役でプレーしている選手と子どもたちが直接会える機会は、普段の学校生活の中ではなかなかありません。翼DREAMを通じて、子どもたちがサッカーに触れ、スポーツの楽しさを体感することで、サッカーだけでなく他のスポーツにも興味や関心を広げてほしいと思っています。また、プロやトップレベルで活動する選手と接することで、夢や目標を持つきっかけになればと考えています」

現役選手と同じ場で体を動かし、言葉を交わす時間には、教員とは異なる立場だからこそ、子どもたちに届くものがある。

「一緒にプレーしたり、声をかけてもらったりすることで、子どもたちにとって非常に特別な体験になっていると感じました」

実際、活動後には「楽しかった」という声が多く聞かれたという。さらに、昨年参加した6年生の女子児童が、その後サッカー大会に出場したという話もあった。「翼DREAM」での経験が、新しいことに挑戦してみようという気持ちにつながった可能性は大きい。

260324_南葛SC_4.png

________________________________________

【地域に出ることで、クラブも育つ】

活動を続ける中で、クラブの進め方にも変化が出てきた。南葛SC WINGS広報の如月拓未氏によると、始めた当初は選手たちも手探りだったが、回数を重ねるうちに授業内容や関わり方が整理されてきたという。クラブ内には地域活動の担当者がおり、学校や行政との調整、日程管理を担いながら、多い時には月3回ほど実施している。その積み重ねについて、如月氏はこう話す。

「翼DREAMで得た経験や気づきがスクールやアカデミーの活動にも活かされ、逆に育成のノウハウが翼DREAMに還元されるという好循環が生まれていると感じています」

一方、菅野は、地域とのつながりを深めるには、試合以外の場でもクラブを知ってもらうことが欠かせないと考えている。

「まずは、より多くの人に南葛SC WINGSを知ってもらうことが大切だと思っています。そのために地域の活動に参加したり、ポスターを届けに行ったり、商店街や地元企業を訪問したりしながら、地域の方々と関わっていきたいです。顔が見える選手として、地域の皆さんに親しみを持ってもらえる存在になりたいと思っています」

________________________________________

【愛されるシンボルへ、地道な継続の力】

南葛SC WINGSでは、活動の冒頭に「南葛SCを知っている人?」と子どもたちに聞くことがある。如月氏によると、4〜5年前は手を挙げる子が数名ほどだったが、最近は多くの子どもたちが反応し、「試合に行ったよ!」という声も聞かれるようになったという。

「こうした認知の広がりは、来場者数や、グッズ売上だけでは測れない成果の一つだと考えています」

活動の場は、葛飾区内から江戸川区など周辺地域にも広がりつつある。江戸川区は、WINGSのユニフォームパートナーであるスターツグループの創業の地でもあり、如月氏は、その地域で選手が活動する意義にも触れた。

「パートナーと関連のある場所でWINGSの選手たちが活動することは、パートナーシップの意義を地域の中で形にしていくことにつながると思います」

今後は未訪問地域にも広げていく考えがあり、内容の工夫も欠かせない。菅野は、子ども一人ひとりと話す時間を増やし、学年に応じて進め方も調整していきたいと考えている。

学校側も、次の展開を期待している。新井先生は、「翼DREAM」をきっかけに興味を持った子どもたちが、さらにサッカーに触れられる機会が増えることを願う。

「例えば体験会のような形で、より本格的にサッカーに触れられる場があれば良いきっかけになると思います。加えて、一緒に給食を食べながら交流したり、職業やサッカー選手という仕事について話を聞く機会があったりすれば、子どもたちにとってより学びの多い取り組みになるのではないかと感じています」

学校での一つひとつの出会いを重ねながら、南葛SC WINGSは少しずつ地域に根づいていく。


文=松原渓(スポーツライター)

このページを共有する
  • ツイートする
  • シェアする
  • ブックマーク
  • LINEで送る