ホームゲームが地域とつながる入口に VONDS市原FCレディースが描く"応援されるクラブ"のかたち
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【スタジアムに生まれた地域との接点】
試合の日、スタジアムは地域の広場に変わった。
2026年3月28日、ゼットエーオリプリスタジアムの外には明治安田生命の健活ブースが並び、来場者は野菜摂取量を測る「ベジチェック」に笑顔で参加していた。
案内役は、VONDS市原FCレディースの吉川はなのと篠崎葵の2人。家族連れやサポーターに声を掛け、健康チェックの手順を説明しながらブースへ案内した。トップチームのホーム開幕戦に合わせ、小学3、4年生向けの「VONDS市原 DREAM SESSION 2026」も開かれ、140名を超える子どもたちが選手との練習やドリームマッチ、抽選会に参加した。JFL昇格後初のホーム試合とあって、会社を早退して応援に駆けつけた人や、東京からこの日のために訪れたサポーターもいて、会場全体に高揚感が広がった。
市原市が300名の市民を招待したこともあり、サッカー観戦に来た人だけでなく、健康イベントや子ども向け企画を体験しに訪れた人も。篠崎は「老若男女さまざまな方に支えられて試合が成立していると感じた」と振り返る。
ホームゲームは、勝敗を見届ける場所であると同時に、地域の人がクラブを身近に感じる入口にもなる。3月28日のゼットエーオリプリスタジアムには、その可能性が広がっていた。
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【健康を入口に地域課題と向き合う】
スタジアムの一角では、健康をテーマにした会話も生まれていた。協働団体である明治安田生命は「みんなの健活プロジェクト」というスローガンのもと、地域住民の疾病予防と健康増進に取り組んでいる。ホームゲームでも健活ブースを開き、幅広い世代に健康チェックを受けてもらう。この日も来場者が自分の野菜摂取量を確認し、食生活を見直す機会を提供していた。
ブースを運営する明治安田生命の影山氏は、測定の意義をこう説明する。
「野菜を十分に摂ることは、血管疾患や脳卒中などのリスクを下げ、さまざまな病気の予防に役立つことが明らかになっています。自分自身の野菜の摂取量を確認することで、健康意識を持ち『野菜を食べる』という、すぐにでも始められる身近な健康への取り組みを始めていただける。そのため、イベントでは分かりやすいベジチェック測定を行っています」
健活ブースには子どもから高齢者まで幅広い年齢層が訪れ、サッカー観戦以外の目的で来場した人たちにもクラブを知ってもらう機会になった。
VONDS市原は、協賛や広告にとどまらず、企業と連携して地域の課題解決に取り組む姿勢を打ち出している。クラブのフロントスタッフ・原田直樹氏はこう説明する。
「広告としてのパートナーシップからの脱却を図り、今後は企業とのタイアップや企業課題解決をベースにしたイベントを行っていきたいと考えています。その走りとして、本イベントを開催しました」
この取り組みの背景には、市原市が進める「アンコンシャス・バイアス啓発事業」がある。この事業は、性別役割分担や固定観念から生まれる無意識の思い込みへの気づきを促すことや、男女共同参画への意識を高めることを目的とする。VONDS市原の活動もこうした視点と重なっている。
「地域の課題解決をスポーツビジネスと捉え直すこと。男女共同参画。そして『体験としての価値』の三つを軸に取り組んでいきたいと考えています」(原田氏)

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【ピッチの外で生まれた実感】
3月28日、明治安田生命の健活ブースでは、吉川と篠崎が訪れた人に声をかけ、測定の受付や流れを案内していた。
ブースにはサポーターやトップチームのグッズを手にした人に加えて、健康チェックを目当てに足を運ぶ人も。普段は応援される立場の二人が自ら声をかけることで、来場者との距離が自然と縮まった。案内を続けながら、2人は地域の人々の反応を肌で感じたという。
「老若男女さまざまな方に支えられていると実感し、常に誰かに見られていることを前提とした言動が大切だと感じました。応援してくれる方のために努力するという自分のモットーを再確認し、応援に対して結果で恩返しをしなければ、という気持ちが強くなりました」(篠崎)
「自分から声を掛けることで地域の方との距離が近く感じられました。気軽に話しかけてくださる方も多く、支えていただいていることを実感しました。応援される選手でありたいという気持ちが強くなり、普段のプレーや行動にもさらに責任感を持って取り組もうと思えるきっかけになりました」(吉川)
ピッチの外で交わした短い言葉は、2人にとって地域に支えられていることを確かめる時間になった。その実感は、日々の練習や試合に向かう責任感にもつながっていく。

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【体験が子どもたちの記憶になる】
子どもの歓声がピッチに響き、スタンドからも温かい視線が集まった。男子トップチームの試合に合わせて開催された「VONDS市原 DREAM SESSION 2026」では、地元の小学3、4年生を対象に、レディースやトップの選手たちが見本となってサッカー教室を実施。その後は子どもたちが選手と対戦するドリームマッチも行われた。最後には参加者全員で記念撮影と抽選会があり、レディース全選手のサイン入り色紙も景品として用意された。
プロの動きを間近で見ながらボールを追いかけ、憧れの選手を相手にゴールを目指す――サッカー教室やドリームマッチが特別な体験になる理由を、原田氏はこう考えている。
「選手が直接指導することが重要だと考えています。市原に根差したスポーツクラブがあり、指導や試合で選手と対決する中で、『見て』学ぶより、実際に体験することが大切だと思っています。プロになった選手が考えているノウハウをダイレクトに伝えてもらうことで、体験としての価値が上がるのではないかと考えました」
加えて、この取り組みには、来年度から刷新予定の課外スクール「おむすび隊」の試行という意味合いもあった。
「『おむすび隊』を来年度から刷新する予定で、今回のイベントはそのテストの場としての背景もありました」
健活ブースが幅広い世代への入口なら、DREAM SESSIONは次世代との接点だ。子どもたちがスタジアムで選手に出会い、体を動かし、クラブの空気に触れる。そうした経験が、地域の中にVONDS市原という存在を少しずつ根づかせていく。

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【地域に応援されるクラブへ】
VONDS市原FCレディースは今季、なでしこリーグ1部に挑んでいる。関東リーグから積み上げてきたクラブが、全国の舞台で戦うシーズンだ。ピッチの外で地域とどうつながるのかという視点にも、より大きな意味が生まれる。
主将の村上賀梨はシーズン前、「これまで以上に共に闘って欲しい」と発信した。副将の山田二千華も、「常に隣の人に応援されるようなチームを目指す」と語っている。3月28日の健活ブースやDREAM SESSIONには、その言葉につながる空気が確かにあった。明治安田生命の影山氏も、選手がブースに立ったことで来場者との距離が縮まったと感じている。
「現役選手ですよ!と声をかけると、健活ブースに足を運んでくださる方が多くいらっしゃいました。女子選手の皆さんも来場者の方とにこやかにコミュニケーションを取ってくださり、距離感が縮まったと感じています。来場者の方や職員、その家族も含めて関わっていただくことが、ファン拡大につながると感じました」
選手たち自身も、この交流を一度きりの活動とは考えていない。篠崎は、「女子サッカーの魅力だけでなく、スポーツの良さも広めながら、何かを目指すきっかけになれるような関わり方をしていきたい」と話す。そして吉川も、地域とのつながりをさらに深め、スポーツの魅力を伝えていくことに意欲を燃やす。
「特に子どもたちには、夢や目標に向かって挑戦する楽しさを感じてもらえたら嬉しいです」
健康、子ども、スポーツを通じた今回の交流は、選手と地域の人が顔の見える関係を築く機会になった。声をかけ、言葉を交わし、次は試合会場で応援するきっかけになる。そんな循環を生み出していくことが、地域に根差すクラブの力になっていく。
文=松原渓(スポーツライター)
一般社団法人日本女子サッカーリーグ 



