「糖」の正しい知識を子どもたちに届ける学びの場 レノファ山口FCレディースがつくる地域との接点
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【母校の教室へ。子どもたちに届いた"身近な先輩"の言葉】
教室の空気がふっとほどけたのは、母校に帰ってきた"先輩"の姿が見えた瞬間だった。
2025年12月11日、山口市立小郡小学校で行われた「糖に関する食育教室」。5年生の児童約60人の前に立ったのは、元なでしこジャパンでレノファ山口FCレディースの選手であり、この学校の卒業生でもある田中陽子だった。
プロ選手が学校を訪れるだけでも特別な時間だが、この日はそこにもう一つの意味が重なった。教壇に立ったのは、かつて同じ校舎で学び、同じ地域で育った卒業生。だからこそ、子どもたちのまなざしにも最初から親しみがあった。それは田中にとっても、感慨深い時間だったという。
「母校にレノファの選手として帰ってきて授業ができると聞いたときは、素直にうれしかったです。卒業した学校で小学生のみんなと触れ合えるのがすごく楽しみで、制服を見て懐かしくなりましたし、校舎や教室など、自分の記憶がある場所なので特別な感じがありました」
給食の牛乳パックにも描かれているクラブマスコットのレノ丸も登場すると、場は一気にやわらいだ。子どもたちにとって日常の中にあるレノファの近さが、田中の言葉を自然に受け止めさせた。
この日、教室で子どもたちが学んだのは、身近なお菓子にも含まれる「糖」との付き合い方だ。田中は自身の競技経験も交えながら、小学生時代の過ごし方や、お菓子を食べるタイミングについて子どもたちに語りかけた。

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【"摂らない"ではなく"どう摂るか" 身近なお菓子から始まる食育】
授業の軸にあったのは、「糖」を必要な栄養素として捉える視点だった。食べるか食べないかではなく、何を見て、どう選ぶか。身近なお菓子を通して、その視点を育てていった。
この取り組みは、カンロ株式会社、レノファ山口FC、山口市の連携で続いてきた食育活動の一つで、今回が5回目となる。子どもたちや地域住民に向けて、健康増進や食育、食の安全をテーマに実施されてきた。
100年以上にわたり糖と向き合ってきたカンロは、糖が持つ働きを正しく伝えることも自社の役割の一つと考えている。カンロ株式会社・経営企画本部サステナビリティ推進部係長の若杉貴氏は、活動を続ける理由をこう説明する。
「糖は体や脳を動かすために欠かせない栄養素ですが、近年は役割が十分に理解されないまま、摂取そのものを控えるべきものとして受け取られやすくなっています。だからこそ、『摂らない』ではなく、『どう摂るか』『どう付き合うか』を伝えることが大切だと考えています」
その考え方を子どもたちに伝えるため、題材にしたのは、山口県で70年間作られてきた「カンロ飴」だった。
日常的に目にするお菓子のパッケージの裏面に並ぶ原材料表示や栄養成分表示を見ながら、「何が書かれているのか」「どう読むのか」を一緒に確かめていく。
「山口県で長く作られてきたカンロ飴を題材にすることで、学びをより身近なものにしたいと考えました。パッケージ裏面の表示を見る経験を通して、普段自分がどのようなものを食べているのかを知り、自分で考えるきっかけにしてほしいと思っています」(若杉氏)
授業では、糖の働きを視覚的に学べる動画も流れた。表示を読み、自分で選ぶ視点を持つこと。それも、この教室が子どもたちに手渡した大切な学びの一つだった。
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【海外経験で広がった食と糖の話】
田中は、糖の役割を自身の競技生活と結びつけ、プロ選手として自分の体で感じてきたこととして子どもたちに伝えた。
「体に必要な栄養素はいろいろありますが、その中でも糖はスポーツにもすごく大事だということを伝えたかったです。糖を取ることでブドウ糖がエネルギーになる、ということに子どもたちはびっくりしていました。バランスよく栄養を取って、元気に健やかに育ってほしいという思いで話しました」
競技生活の中でどんなお菓子を口にしているのか。その具体例によって、糖の話は子どもたちにとってぐっと身近になった。スペインや韓国でプレーしてきた田中は、日本のお菓子との違いにも触れながら話を広げていった。
「海外のお菓子はチョコレートが多くて、日本とは違って甘さが強めです。だからこそ日本のお菓子は質が高いと思います。私たちスポーツ選手も、ラムネやグミを試合前や前日のバス移動のときに食べることがあります」
田中が子どもたちに伝えたのは、甘いものを遠ざけるのではなく「必要な場面で取り入れる」感覚だ。勉強や運動の前後など、タイミングと量を考えることで、糖は日常を支える力にもなる。
「食べ過ぎはよくないけど、必要な要素でもあるので、まずはお母さんたちの言うことを聞くことが大事だと伝えました。勉強するときでも、糖が足りていないと集中しづらいこともあるので、摂るバランスとタイミングを意識してほしいと話しました」
授業のあと、子どもたちから手紙が届いた。「勉強になりました」「知らなかったのでびっくりしました」「私もすぐに努力したいです」。そうした反応に、田中も手応えを感じたという。
「子どもたちも目をキラキラさせて聞いてくれて、講義の後にもらった手紙を見て、新しいきっかけになれたのかなと嬉しく思いました。一つでも生活の中でできることや、プラスの楽しみにつながるようなことを届けたいですし、子どもたちや人々の生活が少し充実するようなきっかけになれる存在でありたいです」

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【企業、学校、地域をつなぐ、レノファ山口レディースの役割】
この教室は、カンロが持つ糖の知見、学校と山口市が用意する学びの場、そしてレノファ山口FCレディースの発信力が合わさって成り立っている。レノファ山口FCパートナー営業部の上利直輝氏は、その中でクラブが果たす役割を次のように捉えている。
「カンロ様が長年培われてきた糖に関する専門的知見や、『どう摂るか・どう向き合うか』を伝える考え方は、子どもたちの健康や将来に直結する重要なテーマだと感じています。クラブとしては、その価値を地域の中で伝わる形に変えていく役割を担っています。スポーツクラブの発信力や親しみやすさ、選手の影響力が加わることで、専門性の高いテーマでも、子どもたちが興味を持つ入口を広げ、理解を深めていけると考えています」
一方で、企業側が感じているのは、単独ではつくれない学びの場が生まれていることだ。自治体、学校、クラブ、企業が連携することで、知識の提供にとどまらず、子どもたちが自分の生活と結びつけて考えられる。活動を継続してきたからこそ、地域の中で少しずつ認知も広がってきた。
「自治体、学校、スポーツクラブ、企業が連携することで、地域全体で子どもたちを育てていく形ができていると感じています。社員の講義に加えて、選手が自身の経験を交えて話すことで、食や栄養の話がより伝わりやすくなっています。継続して実施してきたことで、社外の方から『意義のある取り組みですね』と声をかけていただく機会も増え、参加した従業員からも新たな気づきや学びがあったという声がありました」(若杉氏)

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【教室がつなぐ地域との距離】
田中の言葉が子どもたちに自然に届いた背景には、レノファ山口FCレディースが地域の中で育んできた親近感がある。試合結果や順位とは別の場所で育つ地域との関係も、クラブにとって大切な財産だ。
「クラブとしては、企業や地域の課題とステークホルダーをつなぎ、その価値や想いをより多くの人に伝わる形で届けていければと考えています。スポーツの力や選手の存在を生かしながら、地域の中で"伝わる、広がる、残る"価値を生み出していきたいです」(上利氏)
子どもたちの前に立ち、学びのきっかけを届ける。教室で生まれる接点が、クラブと地域の距離を縮めていく。
文=松原渓(スポーツライター)
一般社団法人日本女子サッカーリーグ 



