連載コラム

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2022年05月20日

日本全国なでしこリーグの街を訪ねて ヴィアティン三重レディース編

三重県に2つ目のなでしこリーグ参入クラブが誕生しました。ヴィアティン三重です。ヴィアティン三重は、愛知県に隣接した桑名市、東員町、いなべ市、木曽岬町、朝日町、川越町、菰野町をホームタウンにしています。Jリーグ入りを目指すトップチームは2017年からJFLに昇格し全国で戦っています。5年後の2022年から、ヴィアティン三重レディースも、なでしこリーグ2部に昇格しトップチームと同じように全国の舞台を踏んでいます。

江戸時代に江戸と京都を結んだ東海道には一カ所だけ海路がありました。宮宿(愛知県名古屋市熱田区)と桑名宿(三重県桑名市)を結ぶ「七里の渡し」です。ヴィアティン三重が事務所を構える三重県桑名市は当時から三重県の玄関口。ここから京都へ、江戸へ、伊勢神宮へ、たくさんの人と物と情報が移動していきました。

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七里の渡し 伊勢国一の鳥居

昔は海に面していた桑名宿跡に伊勢国一の鳥居があります。20年に一度、伊勢神宮式年遷宮ごとに伊勢神宮宇治橋の鳥居をもらい受けて建て替え、今も歴史をつないでいます。鳥居の脇を通る旧東海道沿いにはデパ地下でお馴染みの柿安 料亭本店をはじめとする料亭、割烹、カフェが点在しています。

今回は、ヴィアティン三重レディースのホームタウンである三重県北部を訪れます。



新入社員に成功体験の刺激を提供してあげたい
前田運送株式会社 倉庫事業部 部長 小山賢司さん

三重県北部は今でも交通の要所です。川を渡れば愛知県、伊勢湾岸道みえ川越インター近くに、前田運送株式会社は4拠点6棟の冷凍冷蔵倉庫を構えています。たくさんのトラックが並ぶ駐車場には100本以上のヴィアティン三重ののぼりが風にはためいています。クラブのエンブレムとマスコットを表現したラッピング大型トラック「ヴィアティン号」も、ここを起点に走ります。最初にお話してくださったのは、前田運送株式会社 倉庫事業部 部長 小山賢司さんです。

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前田運送株式会社 倉庫事業部 部長 小山賢司さん (※撮影時にマスクを取りました。)

「ヴィアティン三重とおつきあいさせていただくことで、特に人材採用の場面でプラスになっています。弊社の知名度向上につながっています。また、選手の雇用も行なっています」

地元で働くことにこだわりを持つ人が多い職場なので、地元クラブの発展に貢献するヴィアティン三重の姿勢が、進路を選択する学生に高く評価されているようです。

「最近、三重県のサッカーは盛り上がっています。ヴィアティン三重レディースも、なでしこリーグに昇格したことで、一層、話題になっています。なでしこリーグのレベルは高いですね。頑張っている選手を見ると応援してあげたくなります。選手の皆さんには、好きなサッカーを長く続けてプレーしてほしいです」

前田運送株式会社は三重県内の食品物流業界では取扱量が第一位。この10年で売上高が2倍以上になり、業績が安定した三重県内の有力企業です。しかし、小山さんは、前田運送株式会社の社内に、ヴィアティン三重のような挑戦する企業風土も加えたいと考えています。2021年にヴィアティン三重の代表取締役社長 後藤大介さんが前田運送株式会社の新入社員向けに講演を行いました。小山さんが以前に出席したパーティで後藤さんのお話をお聞きし、それが強く印象に残っていたため講演を依頼したのです。

「新入社員に成功体験の刺激を提供してあげたいと思いました。欧州のスポーツクラブを見る必要性を感じた後藤さんがオランダに視察に出かけたりして、挑戦していく行動力が素晴らしいお話でした。地元にこんな人がいるということを知って、新入社員が何か感じてもらえればと思います」

小山さんと前田運送株式会社はヴィアティン三重のスピリットに共感し、前を向いて走り続けています。



ヴィアティン三重のポロシャツが普段着になりました
東員町教育長 岡野譲治さん

桑名市の西側に東員町があります。東員町は胎児期から義務教育が終了する16年間を1つの期間とする「16年一貫教育プラン」を推進し、「基本的信頼感」「自己肯定感」「自己有能感」の「3感 EDUCATION」をモットーに据え、子どもたちの「意欲」を高める保育・教育を進めています。名古屋駅から直行の高速バスもあり通勤圏。「いい部屋ネット街の幸福度ランキング2021<東海版>」の第1位を獲得した子育て世代に人気の町です。

ヴィアティン三重レディースがホームゲームを開催する朝日ガスエナジー東員スタジアムから徒歩10分のところに東員町役場があります。その隣の東員町総合文化センターの1階にヴィアティン三重公認 サポーターズカフェ「THE BOWL cafe」があり、町民のコミュニケーション拠点となっています。東員町総合文化センターで、東員町教育長 岡野譲治さんにヴィアティン三重レディースの魅力をお聞きしました。


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東員町教育長 岡野譲治さん(中央右)、東員町教育委員会事務局 社会教育課 課長 田中豊さん(中央左)、課長補佐 仲田大介さん(左)、スポーツ振興係長 山下哲郎さん(右) 東員町出身の七世松本幸四郎丈の像(弁慶)の前で (※撮影時にマスクを取りました。)

岡野さんは、ヴィアティン三重のポロシャツで登場。

「これ、普段着なんですよ(笑)」

週末にJFLのホームゲームが開催される週は、教育委員会で働く皆さんがヴィアティン三重のウェアを身につけます。それに加えてヴィアティン三重レディースがホームゲームを開催する週も身につけるようになったので、ヴィアティン三重のウェアを身につけて働く週が大幅に増えました。今では、身につけていない週の方が珍しいくらいで、ヴィアティン三重のポロシャツは普段着のようになっています。

「ホーム開幕戦は、昨年までなでしこリーグ1部で戦っていた大和シルフィードが対戦相手でした。相手選手は大きくて上手い。でも、ヴィアティン三重レディースの選手が倒れても立ち上がり、ボールを追いかけて必死にプレーする姿にグッときました。ヴィアティン三重レディースの試合は心が動くんです。それと、ヴィアティン三重レディースの試合を男子のトップチームの選手が応援に来るんですよ。ヴィアティン三重のクラブ全体が温かく、つながりを持っていると感じます」

岡野さんをはじめ、教育委員会の皆さんは、町民の皆さんがヴィアティン三重を好きになって、ヴィアティン三重と東員町を自慢してくれることを願います。

「なでしこリーグの試合は、倒れた選手に手を差し伸べる選手の姿が目立ちます。そうした気遣いを、大人にも子どもたちにも見てほしいです。一生懸命に競いながらもルールを守り、お互いを尊敬し合う姿をスタンドから見ることができるのは、教育的にもありがたいです」

岡野さんは、選手それぞれの夢や目標を実現してほしいと思っています。東員町は、それをお手伝いしたいと考えています。



観光農園の社長はブラジルでプレーした元プロ選手
多度グリーンファーム 代表 横井真人さん

ヴィアティン三重レディースのユニフォームの背中には多度グリーンファームのロゴが入っています。桑名市にある多度グリーンファームは、三重県最大級のいちご狩り、手ぶらでBBQができる観光農園。園内にある農園カフェで味わえるいちごスイーツやフルーツサンドが女子に人気です。代表の横井真人さんは、人一倍サッカーを熱く語ります。

「ウチも大きくなりたい、ヴィアティン三重にも大きくなってもらいたいと思っています。一緒に頑張っていきたい気持ちで応援させていただいています」

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多度グリーンファーム 代表 横井真人さん(左) ヴィアティン三重レディース 福本純子選手(右) (※撮影時にマスクを取りました。)

横井さんは、元サッカー選手。高校卒業と同時に太平洋を渡り夢を追い続け、31歳になるまで13年間をブラジルでプレーしていました。最初は全く通用せずに悔しい思いをしましたが、少しずつ認められプロ契約。本場のブラジルで、地域の小さなクラブが上のディビジョンに昇格していく過程を体験してきました。

お父様が多度グリーンファームを立ち上げたので、帰国後は観光農園の経営に携わるようになりました。

「一度、サッカーとの関わりは断ち切っていたのですが、直後(2012年)にヴィアティンが誕生したことを知りました。見て見ぬ振りはできないし、応援し始めたら、どっぷりと浸かってしまいました(笑)」

ヴィアティン(当時・ヴィアティンFC)が誕生した当時の横井さんは何度も「ヴィアティンの後藤さんに会ったら?」と勧められたそうです。後藤さんは、何人もの人に「グリーンファームの横井さんのところを訪問しましたか?」と言われたそうです。2人は地域の企業の経営者たちから同時に後押しされ、引き寄せられるように出会います。多度グリーンファームはヴィアティン三重のパートナーになります。

「女子サッカーの丁寧なプレーやインテリジェンスは男子のサッカーを上回るところもある」と横井さんは言います。自身がブラジルで経験した、昇格を目指す厳しい戦いを投影しながら、昨シーズンまでは、なでしこリーグ昇格を目指して奮闘するヴィアティン三重レディースを見つめてきました。

「なでしこリーグに昇格したことがヴィアティン三重レディースのゴールではありません。もっと上を目指してほしいと思います。ブラジルでは、たまたま活躍した試合を1部リーグの関係者が見ていて、一晩のうちに契約して引き抜かれたチームメイトの姿も見てきました。ブラジルのサッカー界では『いつも誰かが見ている』と繰り返し言われてきました。練習試合でも、どんな負け試合でも、絶対に誰かが見てくれています。常に全力で頑張ってほしいと思います」

横井さんは自分がプレーしていたときと同じように、今も「選手の未来に広がる無限の可能性」を信じています。

三重県内の複数のクラブが全国レベルで活躍すれば、少年・少女の目標が明確になり、三重県のサッカーはレベルアップし活性化していきます。桑名市、東員町をはじめとする、この地域の女子スポーツが全国につながります。地域リーグから全国リーグに戦いの舞台を移したヴィアティン三重レディースに期待が大きく膨らみます。

今回はヴィアティン三重レディースのホームタウン・三重県北部の皆さんを訪ねました。

※ヴィアティン三重は総合型地域スポーツクラブです。レディースチームに限定しないお話のところはヴィアティン三重、レディースチームに限定したお話のところはヴィアティン三重レディースと表記しています。

Text by 石井和裕

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