連載コラム

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2026年01月30日

なでしこリーグがつなぐ地域の絆~愛されるシンボルを目指して~ASハリマアルビオン

姫路城下で"走る"を入口に。ASハリマアルビオン「かけっこボールあそび教室」がつなぐ地域の輪

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【城下町で生まれる"走る×蹴る"の入口】

姫路城を臨む東御屋敷跡公園で、子どもたちが走り、ボールを追う。ASハリマアルビオンが山陽特殊製鋼株式会社陸上競技部と協力して実施する無料イベント「かけっこボールあそび教室」だ。対象は未就学児から小学4年生まで。陸上部選手が"かけっこ"を、ハリマのトップ選手が"ボールあそび"を担当する。姫路市の後援、企業協賛も得て、行政・企業・クラブが役割を持ち寄る"地域の三角形"で運営されている。

山陽特殊製鋼株式会社陸上競技部の篠藤淳監督は、「速さよりもまず『身体を動かす楽しさ』を感じてほしい」と話す。ASハリマアルビオンの岸田直美代表によれば、近年は"走る以前の体の使い方"に悩む子も増えたという。だからこそ「かけっこボールあそび教室」は、腕振りや姿勢といった基礎を、ボールを追う楽しさへつなげる入口として位置づけられている。

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【スポンサー提案が動かした異競技連携】

ハリマの「かけっこボールあそび教室」は、スポンサー営業から構想が立ち上がり、ASハリマアルビオンの岸田代表の提案によって具体化したイベントだ。

背景にあったのは、協働団体である山陽特殊製鋼陸上競技部が、競技成績だけでなく地域に根差した活動を重ねてきた事実だ。各種大会で活躍し、企業のシンボル的存在として知られる一方で、小学生から中学生を対象にした陸上教室の開催や、小学校のマラソン大会へのゲスト参加など、地域の子どもたちがスポーツに触れる機会づくりにも力を入れてきた。

岸田代表は、立ち上げの経緯をこう振り返る。

「山陽特殊製鋼陸上部が小学生から中学生対象の陸上教室や小学校のマラソン大会にゲスト参加されるなど地域貢献活動にも力を入れている背景を知り、弊クラブとのコラボを提案させていただき、話が進みました」

特徴的なのは、異なる競技が同じ場に立つだけでなく、運営まで含めてチームとして組み上げている点だ。運営はクラブが主導し、企業側は競技の強みを生かして現場を支える。両者が役割を持ち寄ることで、子どもたちにとって分かりやすい参加のきっかけが形になった。

「募集や参加者管理や企画運営などはASハリマアルビオンが担い、山陽特殊製鋼陸上部は選手指導者派遣や企画グッズ提供や子ども達が喜ぶ着ぐるみの『さんとくん』の登場などで協力していただいています」(岸田代表)

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山陽特殊製鋼陸上部も、この場を単発の交流ではなく、地域にスポーツの熱を残す機会として捉えている。同部の篠藤監督は、イベント協力の背景に「地域のスポーツ振興」「異種競技コラボでの盛り上げ」「子どもたちの思い出づくり」を挙げ、目的を「社会貢献活動」「新しい運動体験の提供」「競技間交流による魅力発信」「地域の活気につながるイベントの開催」と位置付けた。

クラブ側にとっても、地域に「サッカーだけではない入口」をつくることは活動の幅を広げ、次の接点を生む。

スポンサー営業を起点に、地域で積み重ねられてきた陸上部の実績と、クラブが培ってきた運営力が合わさり、2023年に「かけっこボールあそび教室」が立ち上がった。

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【走る基礎から、ボールの楽しさへ】

「かけっこ」と「ボールあそび」を同時に体験させる流れは、現場での小さな気づきから生まれた。イベントや教室を重ねる中で、幼少期〜低学年で「腕を振って走れない」子どもたちが少なくなかったという。ASハリマアルビオンの岸田代表は、サッカー教室に入る前に腕振り運動を取り入れてきた経緯を踏まえつつ、次の一歩をこう説明する。

「腕振り運動(かけっこ)とサッカー(ボール遊び)の連動を、もっと楽しく分かりやすくできるのではと思いました。実際に体験してみると、全身を使って走る爽快感が良かったので組み合わせました」

篠藤監督は「うまくできるかどうかに関係なく『とにかく精一杯やってみること』の価値を伝えたい」と語り、指導では「できたことや、挑戦したことを褒める」声かけを徹底。「メニューは確実にできることから段階的に構成することを心がけています」という。現場では、リレーやサッカーで選手が一緒に走ると子どもたちの反応が一段と良くなる一方、競争に負けて泣いてしまう子がいたことも印象に残ったという。

イベントに参加したASハリマアルビオンの選手も「まずは楽しいと思ってもらえるよう、私たちも一緒になって楽しむ。一つ一つの行動を褒めることで自信につながる」と話す。走る動作を準備運動で終わらせず、ボールへつなぐ体験として提示することで、子どもたちの「できた」を増やしていきたい思いがある。

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【「走る」「蹴る」の一体運営がもたらした "熱"】

教室は年齢帯ごとの2部制で、各回およそ60分。短い時間の中で「走る」と「蹴る」を行き来できる構成にしている。

流れは、準備体操で体を温めたあと、2コートに分かれて複数メニューをテンポよく体験していく。前半は「ジャンプ&パスチャレンジ」と「スプリント&シュート」。後半は「リレー大会」と「ミニゲーム」を組み合わせ、最後に記念撮影と閉会、参加賞の配布までを一気に行う。種目を細かく区切ることで集中力が途切れにくく、初めて参加する子でも「できた」を積み重ねやすい。

運営側が今年、手応えとして挙げたのが、陸上とサッカーをつなぐ設計だった。岸田代表は、前年までとの違いをこう説明する。

「前回は、ASハリマアルビオンと山陽特殊製鋼陸上部で分かれて行いましたが、今回は内容だけでなく担当選手も混ぜて、合同で行いました」

その言葉通り、子どもたちは"競技が変わるから一度仕切り直す"のではなく、走る動きからボールの動きへ、同じテンポのまま次のメニューへ移っていく。会場に生まれる高揚感も途切れにくく、イベントとしての一体感が強まった。

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現場に立ったASハリマアルビオンの選手も、準備段階から変化を感じていたという。

「昨年までは、陸上とサッカーは別々に行っていましたが、今年からは混合させたメニューを組みました。最後はミニゲームとリレー対決に分かれて行ったので、リレー対決には身体が軽やかな若手選手に走ってもらいました!」

安全面の備えも欠かさない。雨天時は当日朝に実施可否を判断して参加者に連絡し、救護体制としてAEDを持参。1時間の体験の中で子どもたちが走る・蹴るを思い切り楽しめるよう、見えない段取りも含めて場を整えた。

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【広がる参加、育つコミュニティ】

3回目を迎えた「かけっこボールあそび教室」は、参加状況に手応えが表れている。直近の回では、1部(未就学児・小学1年生)が定員40名に対し申込44名、参加39名。2部(小学2〜4年生)は定員60名に対し申込24名、参加20名だった。山陽特殊製鋼の他イベントも含めてリピーターの参加率は高く、回を重ねる中で「また来たい」という動機が教室の基盤になりつつある。

数字が示すのは参加者の増減だけではない。岸田代表が「定着しつつあるようで、参加者同士のコミュニティができている」と語るように、顔見知りが増え、子ども同士や保護者も含めたつながりが生まれ、単発の体験から「地域の行事」に近い温度を帯び始めている。

そのつながりは応援へも波及する。イベントに参加した選手は「イベントからASハリマアルビオンの存在を知って、試合に観に来てくれるお子様が増え、個人名を呼んで応援してくれるお子様が増えていると感じます」と実感を込めた。教える立場に立つことで「サッカーは楽しむものだと再認識させられます」ともいう。

教室の開催がリーグ戦後に当たる点を踏まえ、クラブは"次の接点"を切らさない工夫も重ねる。参加者にU12、U15の教室案内チラシを配布し、選手カードを手渡して、ホームゲームのイベント情報も案内する。教室で生まれた好意を、スタジアムへつなぐ小さな導線だ。選手も「応援してもらうために、イベントをさらに盛り上げていきたい」と、次の循環を見据える。

山陽特殊製鋼陸上部の巖優作選手は、異競技連携の価値を「異なる競技の魅力発信」や「応援者層の拡大」と捉える。走ることとボール遊びを同じ場で味わう体験は、参加者同士の輪を育てながら、地域のスポーツ文化を活性化していく。

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【次の一歩へ、広がる参加の幅】

3回目を迎えた「かけっこボールあそび教室」は、継続の手応えと同時に、課題も具体化した。1部と2部で参加人数に差があり、岸田代表は「1部のみで枠を増やすか、中学生部門を設けるか検討中です」と語る。周知はSNSを軸に、地域イベントや試合会場、幼稚園巡回でチラシを配布してきた。運営面はトップスタッフと契約更新選手で回せており、人員・予算・時期とも現状大きな支障はない。

一方、山陽特殊製鋼陸上部の篠藤監督が見据えるのは、競技を掛け合わせることを継続しながら、親子や参加者同士の対話も増やしていく発展形だ。

「サッカーと陸上のコラボは続けながら、もっと楽しんでもらえる内容にしていきたいです。親子で楽しめる参加型イベントや質問コーナーなど交流の場も増やし、スポーツの魅力を発信しながら応援の広がりにつなげられればと思います」

単発の体験で終わらせず、城下町・姫路で"走る"ことをきっかけに、運動と応援の輪を広げていく。異なる競技が混ざり合うこの時間が、子どもたちの「やってみたい」を引き出す。小さな一歩が積み重なり、姫路の日常にスポーツの熱を根づかせていく。


文=松原渓(スポーツライター)

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