連載コラム

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2022年11月16日

未来へ走るなでしこリーガー 第13回 切畑琴乃(ヴィアティン三重レディース・GK)

なでしこリーグの今シーズンを締めくくる年間表彰式が10月26日、都内のホテルで華やかに行われた。1部12チームが激闘を繰り広げた今シーズンの優勝は「スフィーダ世田谷FC」、MVPは世田谷から大竹麻友(25、FW)が選ばれ、14得点をあげた「ASハリマアルビオン」の千葉園子(29、MF)は得点王となった。表彰式で彼女たちが見せる充実した笑顔のなか、輝かしい1年が終わりを告げたかに見えたが、なでしこリーグ2部の戦いはまだ終わってはいなかった。
 女子サッカーの名門で、女子日本代表「なでしこジャパン」をも支えたMF・宮間あや、GKの福元美穂が在籍した「岡山湯郷Belle」が、2016年に降格した2部で最下位(10位)となり、2部昇格にかけた地域リーグ3チームとともに、厳しい戦いに直面する。 「未来へ走るなでしこリーガー」2部編は、今季2部に昇格し9位で1年を終えた「ヴィアティン三重レディース」のGK・切畑琴乃(29)に、なでしこリーグ昇格初年の厳しさと可能性を聞いた。

(連載担当 スポーツライター増島みどり・文中敬称略)

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ー来季につなげた失点数 昇格初年を9位で終えた三重の守護神・切畑琴乃の1年ー

ー昇格ルーキー、が見せた21失点の踏ん張りー

見出しにある「来季につながる失点」は、失点が未来につながるなんて、少し矛盾した表現かもしれない。
 しかし、今季なでしこリーグ2部に昇格を果たした三重の成績には来季や、将来 目指すチームの特徴がよく表れている。順位だけならば、10チーム中9位と、入替戦を何とか回避した位置にある。一方、総失点は21点。これは、リーグ全体でも5位と、昇格したクラブとしては大健闘した証だと評価できる。
また、試合内容も健闘ぶりを示す。
2勝7分け9敗と、引き分け数は湯郷の10試合ほか3番目に多く、1点差での敗戦も実に7試合もある。1点を守り切る、或いは1点取って勝ち越すといった拮抗した試合を取りこぼしたルーキーイヤーだ。それでも、堅実な守備をベースに、チャンスを確実に決めて勝ち越すイメージを、チーム全体、1人1人が自覚し、体現できれば、来季、面白い戦いが増えるはずだ。
「未来につながる失点」には、そんな期待感がある。21失点と踏ん張ったチームを最後方から支えた守護神・切畑はリーグ5番目の失点に、「本当にもったいない試合が多かった。分かっているのに、振り切られてしまう。なでしこリーグのレベルの高さも、改めて実感しました」と振り返る。

ーわずか10カ月間の引退から再起ー

なでしこリーグ1部のハリマでプレーをしていたが、周囲の選手が年齢を理由に続々と引退していくなか、「自分も、もう十分やったんだ」と、2019年の春、26歳で現役引退を決意しチームを離れた。サッカーに未練があったのか、なかったのか自分でも分からなかったが、サッカーを離れてみると初めて、心のどこかでサッカーをやり切ってみたい、と感じているのが分かった。
故郷の三重では、なでしこリーグ入りを目指してヴィアティンが奮闘していた。チャンスをもらい、再びグローブをはめるまで1年足らずの「引退」だった。ずいぶん早い復帰だったのでは?聞くと、オンラインの画面の中で切畑は笑った。
「はい、サッカーを離れてから戻るまで本当に短かったです。ハリマのクラブを辞めた後も、向こうで支援して下さった会社では続けて働かせてもらい感謝しています。サッカーを観ないわけではなかったので、時々試合を観たり、ちょうど東海リーグを戦っていた地元のヴィアティンの頑張りを知ったりするうちに、もう十分やったんだ、と思ったのは本当の気持ちじゃなかったのかもしれない、と考えました。(引退の理由だったはずの)もう十分、では全然ありませんでしたね。体は思った以上に動きませんでしたし、GKとしては、生きたボールを止めるためのリアクションが大事なんですが、明らかに落ちていた。もう十分どころか、まだまだやらなくちゃいけないことばかりだ、と気付かせてもらいました」

ーJFLの三重とともにー

現在は、地元の支援でコスモ石油の関連会社の工場に勤務する。2部のなでしこリーガーたちのほとんどがフルタイムで働き、サッカーを続けているのと同じに、朝8時半から午後5時まで、フルタイムで工場のラインに立つ。三重県のフットボール熱が、仕事とサッカーのめまぐるしい日常の励みにもなっているという。
なでしこリーグでは多くないが、男子のJFLヴィアティン三重と同じクラブで、互いの試合を観戦し、情報の交換もできる恵まれた環境だ。11月20日に最終節を迎える男子は年間総観客数「3万人プロジェクト」と、目標値 をサポーターと共有し、成績も7位と、来季のJ3昇格に向けて着実に地盤を固めている。
「男子の選手が試合を観に来てくれて、GKの皆さんには、あのプレーはこうだったね、とか、こうしたらもっといいよ、などアドバイスを色々もらえるのも自分のモチベーションになりますね。せっかく男子も一緒のクラブなので、地元をいい形で盛り上げられたらと思います」
今オフには、もう一度GKの基本を見直するつもりだ。キックの精度を高め、憧れのGKの1人でもある、元なでしこジャパンの福元美穂が試合で徹底していた細やかなコーチングも身に付けたい。
わずか10か月でも引退を経験したからこそ、これから目指すべき場所が一層明確になり、パフォーマンスも上がる。「未来につなげた失点」の意味と価値を、切畑が誰よりも分かっているはずだから。

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(全てチームメイト:左上 30番 桑原舞音/右上 1番 切畑琴乃/左下 5番 石井彩千香/右下 16番 中村恋菜)



切畑琴乃 プロフィール

1992年12月14日生まれ 三重県出身 ポジション GK

ASハリマアルビオン→2022年よりヴィアティン三重レディース所属

リーグ戦初出場:2014年4月6日 21歳113日

写真提供=J.LEAGUE(上) / ヴィアティン三重レディース(下)

ヴィアティン三重レディースURL:http://www.nadeshikoleague.jp/club/veertien/

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