連載コラム

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2021年12月22日

なでしこリーグの歴史を知ろう 第21回「試練の年を越えて」

日本で女性がサッカーをプレーすることが珍しかった時代から、女子サッカーリーグ開幕、女子ワールドカップ優勝、女子プロサッカーリーグ創設、また、女子サッカーを取り巻く環境、そして社会情勢は大きく変化してきました。
年内にかけて全22回の連載を予定しています。激動の日本女子サッカーの歴史を振り返ります。
(毎週水曜更新)

NL20059_198.jpg2020プレナスなでしこリーグ 第16節 浦和レッドダイヤモンズレディースvs愛媛FCレディース@さいたま市浦和駒場スタジアム(2020/11/8)コロナ禍で開催された2020シーズン、浦和レッドダイヤモンズレディースが優勝を決めた試合

 2019年の6月から7月にかけてフランスで開催されたFIFA女子ワールドカップで、なでしこジャパンはラウンド16でオランダに1-2で屈しました。2011年のなでしこジャパン優勝後、欧州では女子リーグのプロ化が進み、UEFA女子チャンピオンズリーグの人気上昇もあって、各国の代表チームの強化が加速していました。
 この状況に大きな危機感を抱いた日本サッカー協会は、「世界に対抗するには、日本もプロリーグをつくらなければならない」という考えをもつようになり、その年の9月、元なでしこジャパン監督の佐々木則夫氏を室長とする「女子新リーグ設立準備室」を開設します。そしてなでしこリーグとは別に、2021年にプロチームによる新しいリーグをスタートする案が固まります。1989年に「日本女子サッカーリーグ(JWSL)」としてスタートしてから32シーズン目、2020年のなでしこリーグは、日本女子サッカーの「トップリーグ」として最後のシーズンになることになりました。
 2020年には、待ちに待ったオリンピック「東京2020」が開催されることになっていました。そしてなでしこリーグは、3月21日に開幕し、なでしこジャパンにオリンピックに向けた準備の時間を与えるために何回かの中断をはさみながら11月14日まで続けられることになっていました。
 しかし2月、大変なことが起こります。。前年の12月に中国の武漢で最初の集団感染が認められた新型コロナウイルスが、この月にはいって急速に世界に広まっていました。そして日本にも、横浜港に到着した大型客船で数百人が感染していることがわかり、大きな騒ぎになっていたのです。
 Jリーグは2月21日に開幕しましたが、そのわずか4日後に3月15日までの試合の延期を発表します。そして試合の中断は、結局6月下旬まで続くことになります。
 なでしこリーグは最初の2節の延期を3月10日に発表し、2週間後には4月中の試合の延期も決めます。国内でも大都市圏から感染が広がり、4月7日には東京など7都府県で「緊急事態宣言」が出され、16日にはそれが全国に拡大されます。すでにオリンピックは3月24日に「1年延期」が決まり、すべてのスポーツだけでなく、学校、企業などさまざまな活動がストップしました。
 緊急事態宣言が出されている間は、チームとしてのトレーニングも休止され、選手たちは自宅でトレーニングをするなど、個々に引き離された状態となりました。緊急事態宣言が最終的に解除されたのが5月25日。サッカーというチームスポーツのなかで、一年の大半をチームメートとともに過ごしてきた選手たちにとっては、精神的にも非常に厳しい2カ月間だったと思います。
 結局、なでしこリーグが開幕したのは、本来ならオリンピックで中断期間にはいるはずだった7月18日。しかも最初の2節は無観客開催。8月にはいっての第3節以後も、感染防止のために観客数を制限されての開催となりました。
 リーグ戦をやり遂げるために、1部と2部を合わせて行う予定になっていたこの年の「プレナスなでしこリーグカップ」は中止となりました。そして本来3回総当たりのリーグだった「プレナスチャレンジリーグ」は2回総当たりにし、上位・中位・下位に分けて行う予定だったプレーオフも1位同士、2位同士の対戦だけになりました。
 しかしこうしたなかでも、選手たちは「なでしこ」らしく、どのチームも力を合わせて全力で戦い抜きました。コロナ禍でチームメートとも会えずに苦しい思いをした選手たちは、久々にトレーニングで顔を合わせたときの喜びを選手たちはプレーで示しました。また、自らの感染の危険を顧みずに医療をはじめとした公共サービスに従事してくれた人びとへの感謝の気持ちが加わり、「なでしこらしさ」はさらに強まりました。
 32シーズン目のなでしこリーグ1部では、浦和レッズレディースが2位INAC神戸に大差をつけ、「さいたまレイナス」時代を含め4回目の優勝を飾りました。2部優勝はスフィーダ世田谷FC。ちふれASエルフェン埼玉に競り勝ちました。そしてチャレンジリーグでは、EASTのJFAアカデミー福島とWESTのアンジュヴィオレ広島との決勝戦をJFAアカデミーが制し、優勝を飾りました。
 新しいプロリーグはこの年の6月に正式発表され、「WEリーグ」の名称も決まって、10月15日に参加する11クラブが承認されました。そのなかには、32年間一貫してなでしこリーグを引っぱってきた「日テレ・東京ヴェルディベレーザ」を含め、10のなでしこリーグクラブがありました。力を合わせて、「試練の年」乗り越えたなでしこリーグ。その先には、それぞれの新しい道が待っていたのです。

文=大住良之(サッカージャーナリスト)
写真=Jリーグ

(つづく)

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